吹雪の中のベルの音


あれは、、、

まだ、携帯がそれほど普及していない頃の出来事です。


 キーンコーンカーンコ〜〜ン♪  キーンコーンカーンコ〜〜ン♪


ベルの音で目が覚めました。
そうです、ここは学校の教室です。
ここ数日間ずっと、友達と徹夜で麻雀してたんで、ほとんど寝てなかったんですよ。
きっとそのせいでしょうね。
いつの間にか眠っちゃったんです。
うちの高校はそんなに厳しい方じゃなかったんで、授業中に居眠りしても大抵放置されるんですよ。


連日の徹夜がひびいたのか、睡魔はそれくらいじゃ許してくれませんでした。
俺は仮病を使って保健室のベットを借りることにしたんです。

 「先生、、、具合悪いんでちょっと保健室行って来ます…」


保健室に行ってみると、生徒はおろか先生すらいませんでした。
 「まぁ、いいか…」
俺は勝手にベットを拝借することにしたんです。


 「ん〜、、、、   ん〜、、、、 」


俺は布団派なんですよ〜。
もの凄く眠たいのに、ベットの違和感でなかなか寝付けません。。。


その時です!


 リリリリ〜ン♪ リリリリ〜ン♪


とぉ〜くの方から、かすかに、電話のベルが聞こえてきたんです。
たぶん、横になってなかったら、聞こえてないくらいの、
ホントにかすかな音でした。


そのかすかなベルの音が、気になって気になって、、、
しかも、慣れないベットだし、全然眠れないんですよ。
そうして、何度も寝返りを打ってるうちに、
自分の部屋の布団が、もの凄く恋しくなってきたんです。

 
 「先生、、、具合悪いんで、帰っていいですか…?」
 「おう、大丈夫か? 気をつけて帰れよ」




ブォ〜〜〜〜 ゴォゴォゴォゴォゴォゴ
ブォ〜〜〜〜 ゴォゴォゴォゴォゴォゴ




気をつけて帰れ…。
玄関を出て、その言葉の本当の意味を理解しました。
外は、ハンパじゃない猛吹雪だったんです。


あまりの寒さと猛烈な睡魔に、俺はもう限界ギリギリでした。


 「寝るな! 寝たら死ぬぞ!」


自分にそういい聞かせながら、


一歩



そしてまた一歩



家に向かって歩いていきました。


いつもの帰り道が、とてつもなく遠く感じます。




ブォ〜〜〜〜 ゴォゴォゴォゴォゴォゴ
ブォ〜〜〜〜 ゴォゴォゴォゴォゴォゴ




普通なら聞こえるであろう、雪に埋まる自分の足音すら全く聞こえません。




その時です!


 リリリリ〜ン リリリリ〜ン


また、あの電話のベルの音です!


さっきよりも、音が大きくなってる気がします。
俺は音の鳴る方へ行ってみることにしました。


数十メートル歩いたところで、ベルの音は鳴り止みました。


相変わらずの猛吹雪で、1メートル先も、ろくに見えないありさまです。
俺は、その音が聞こえてきた方へ、
感を頼りに進んでみたんです。




 ゴツン!


 「いってぇ〜!」
突然現れた障害物に激突してしまいました。
最初はよくわからなかったんですが、
その障害物は、雪に埋もれた電話ボックスだったんです。


吹雪に打たれ続けた俺の体は、もうボロボロでした。
 「ちょうどいいや、ここでちょっと休もう」
まさにそこは天国でした。
周りがほとんど雪で覆われているため、
中はかまくら状態で、もの凄く暖かかったんです。






 リリリリ〜ン!
 リリリリ〜ン!


けたたましいベルの音です!
あまりにも気持ちが良かったんで、寝てしまっていたようです。
俺は反射的に受話器を取っていました。


 「もしもし?」


 「・・・・・」


 「もしもし?」


 「・・・・・」


 「もしもし!?」


 「・・・・・ロン   ガチャ!


 ツー ツー ツー…」


どこかで聞いたことのあるような男の声でした。


ふとあたりを見渡すと、吹雪はおさまっていて、
その後は、楽に家路に着くことができました。


家に着いた俺は、奇妙な電話のことなどすっかり忘れ、
熱いお風呂に入って、暖房の効いた暖かい部屋で、
お気に入りの布団にくるまって、
翌朝まで熟睡したんです。




翌日の学校で、俺は初めてそのことを聞かされました。


隣町の高校に通う、麻雀仲間のN君が、


あの日、ちょうど、最初の電話のベルが聞こえてきた頃、


あの猛吹雪の中、トラックに轢かれて、亡くなっていたそうです…。


あの電話の、聞き覚えのある男の声は、、、
きっと、N君だったんでしょうね〜…。




今や、携帯電話のおかげで、電話ボックスなんてほとんど使われなくなりましたが、
俺にとって、電話ボックスは、
一生忘れることのできない特別な存在なんです。



稲川淳二氏に捧ぐ